赤ちゃんが初めて自力で「おすわり」をした瞬間を見たことがありますか? たいていの場合、ハイハイでの方向転換の際にバランスをくずしたり、四つん這いの姿勢から後ろにお尻を引いておすわりになったりする事が多いようです。
私自身の子供は、ずりバイでの後退から開脚を通過していつの間にか……という珍しい形でしたが、このように「おすわり」へのアプローチは大変バラエティに富んだものであるようです。
どんな形であれ、自分の背中の筋肉で自分の頭を支えられるようになるまで、赤ちゃん自身は自発的にはおすわりをしようとしないようです。
さて。それは何故なのかを見ながら、おすわりに必要なのはどんな筋肉なのかを見ていくことにしましょう。
赤ちゃんのおすわりに限らず、人間が立位の姿勢を維持するための筋肉が「脊柱起立筋」。その名の通り「脊柱」を「起こし」て「立たせる」筋肉です。
それと共に座った状態をキープさせるための腹筋群、いわゆるコア(体幹部)の筋肉の他に脚と胴体をつなぐ「腸腰筋」と呼ばれる筋肉群が必要になります。
※大腰筋、腸骨筋を合わせて「腸腰筋」と呼んでいます。
立っている姿勢ではあまり意識されない筋肉ですが、この筋肉は近年注目を集めている「インナーマッスル」の代名詞のような存在。
赤ちゃんの時期にこの腸腰筋をしっかり使っておかないと、「歩く」、「走る」、「階段を登る」などと言った日常的な動作が何となく苦手な子どもになってしまう可能性があるのです。
そしてこの腸腰筋、今までのある動作でしっかりとトレーニングされているべき筋肉なのですが、なんの動作なのか、お判りでしょうか?
それは……
ハイハイです!
「おすわり」と「ハイハイ」。一見無関係なようなこの2つの成長過程は、切っても切り離せない関係にあるのです。
腕と脚でしっかり胴体を支えた状態で、太ももをお腹に引きつける動作こそが「腸腰筋」の働き。ここでしっかり脚を動かしておかないと、太ももの前側の筋肉で脚を動かす癖がついてしまったり、そもそも脚を持ち上げる動作そのものが上手くいかず先ほど述べたような苦手分野が出来てしまったりするのです。
例えば滑り台。
滑り降りるときに胴体が後ろに倒れやすかったり、降り口でうまく着地できなかったりするのは、滑って行く下半身に上半身が付いていけないせいかも知れません。
これは太ももに対して胴体を立てておく「腸腰筋」の力が不足しているため。
ハイハイの際には動かない胴体に対して太ももを近づけるように使う筋肉ですが、座った姿勢のように下半身が固定されている場合には胴体を太ももに近づける力を発揮するのです。
さて、これらの筋力の準備が整ったところでいよいよ「おすわり」の時を迎えるわけですが……
準備不足のまま座ることを覚えてしまった場合、どんなことが起こるのでしょうか?
バランス能力というのは反復練習で身につきやすいものです。自分の筋力で頭を支える準備が整う前に座る姿勢でバランスを取ることを覚えてしまうと、「頭を下から支える」べき背骨周りの筋肉は「頭の重みに耐える」だけの積極性を失った筋肉になってしまいます。
つまり、せっかく「寝返り」や「うつ伏せ上体そらし」で培ったアクティブに動く力を失わせることになりかねないのです。