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栗原 千温 kurihara chiharu
<profile>
1977年静岡県生まれ。
大学卒業後紆余曲折を経て、現在音楽イベント制作運営等を行う会社の代表と、美容健康関連商品のOEM企画提案の会社のコスメプランナーという二足の草鞋を履く。
少女時代から身の回りにある漫画を片っ端から読み漁り、「人生の大切な事は漫画から教わった」と断言。
東日本大震災のボランティアを経験したことから心理学を学び、漫画にみる心理等も興味深く探求中。
内閣府認定特定非営利活動法人キャリア戦略研究機構認定心理カウンセラーエントリーコース修了、スマイルカラーセラピー(カード式カラーセラピー)レベル1(チャクラカラーセラピー)レベル2(トータルカラーセラピー)認定資格、一番社団法人日本プロカウンセリング協会 二級心理カウンセラー養成講座修了。



そして、私にとっての「イグアナ的作品」――大きな衝撃を受けた漫画は、「愛すべき娘たち(よしながふみ著・白泉社)」でした。


(C)よしながふみ/白泉社

SFテイストの「イグアナの娘」と比べるとこの作品はずいぶんストレートな表現で母娘の距離感が表現されています。
例えば、主人公・雪子が学生時代、母・麻里に放った言葉とそれに対する母の返答のシーン。あまりに現実的で的を射ていて驚きでした。その会話とは、こうです。

娘「それって八つ当たりじゃない!? そういうのよくないと思う!」
母「そうよ八つ当たりよ それのどこがいけないの?
親だって人間だもの 機嫌の悪い時ぐらいあるわよ!
あんたの周囲が全てあんたに対してフェアでいてくれると思ったら大間違いです!!」


この台詞、まさに「そうか!そうだったんだな!」と子供の頃の母との思い出と直接にリンクしてしまい、初めて読んだとき思わず笑みがこぼれてしまいました(笑)
私自身、愛情をその身に感じながらも、親との確執を抱えながら育ってきました。まあよくある話なんですが、親の望む「良い子」を演じていなければ親に愛してもらえないと思い込んで、懸命に親の理想の子供を演じ続ける子供時代を送っていました。
私の母は、今となってはとても感情に素直で人間味のある愛情深い人間なんだと思いますが、その感情の起伏の激しさを家族にそのままぶつける人でした。幼い私は母に愛されるためには、常に褒められるような「良い子」でいなくてはならないと思い込んでしまったのでした。
そうやって日々を過ごしながらも、彼女の望む子供と「本当の自分」は違う気がする――。そんな自分の中の違和感にようやく気づいたのは、高校時代でした。
そして親元を離れた後、この作品を読んで気づいたのです。母が私に「理想の良い子」を求めていたように、私も母に対して「理想の母親像」を強く望んでいたのではないかと。
母も当時、子育てをしながらフルタイムで働き、女性の多い職場では人間関係でストレスを抱えたりもして……精神的に余裕がなかったのだろうと、大人になった今は想像できるし、同情も出来る。
そりゃ大人だって、八つ当たりしたくなるよね、と、この漫画を通して母も一人の人間だと気づく事が出来ました。漫画から感じる事で、ずいぶんと母と自分の間に感じていたギャップを埋める解釈が出来たように思います。

また、この雪子と麻里の話には別のエピソードもあります。
美しい麻里のことを、再婚した年下の夫は「綺麗だ」と褒めるが、麻里はそれを受け容れない。その原因が祖母(麻里の母)の躾が原因だったことを雪子は知ります。祖母の女学生時代、同級生に美人を鼻にかけた娘がいたために「娘があの子のようにならないように」と思うあまり、可愛い麻里を「可愛いね」「綺麗だね」と褒める事が出来なかった、というのです。愛ゆえの躾だったのです。

結局母と娘の呪縛は、娘が母となりまた娘を持って、連鎖して行くのだなあと感じます。
私は片付けが出来ないので、子供の頃から母に叱られていました(今も叱られます)。最近心理学を学ぶ中で、「自分が片付けられない事を、私は本当は厭だと思っていない」ということを知りました。厭なのは「片付けられないと母に叱られる」ということなのでした。それを知った数日後、母から手紙が来て「部屋はちゃんと片付けていますか?女性なのだから片付けがちゃんと出来ないと困るよ。もしおばあちゃんが生きていたら、お母さんが叱られてしまうよ!」と書かれていて、ああ、母も同じなのだ、と身を以てその呪縛の連鎖を思い知りました(苦笑)

「母というものは
要するに
一人の不完全な
女性の事なんだ」

「愛すべき娘たち」における母娘の終着点は、この台詞に集約されていると思います。
女性という性は、本当に複雑です。母には母の、娘には娘の愛があり、またそれ故の葛藤もある。
「花の24年組」の一人として活躍し続けて来た萩尾望都先生は、数々のヒット作を生み出しながらも実際ご両親が漫画家という職業を認めてくれず、親との確執の中で描き続けてきた作家さんです。その現れが、「イグアナの娘」。そしてその萩尾先生の作品に影響を受け、自身もまた長女という自覚の中でもがき続けたという、よしながふみ先生の作品もまた、母と娘を描いています。
作家さんにとっては、漫画を描く事で自分の中を整理し、浄化したのかもしれないですね。
それを読む私たちもまた、感情的になりがちな親との関係を、漫画という媒介を通す事で冷静に見つめたり、気付きを得たりするのかもしれません。

【終】

参考文献:
イグアナの娘(萩尾望都著・小学館刊)
愛すべき娘たち(よしながふみ著・、白泉社刊)
母は娘の人生を支配する〜なぜ「母殺し」は難しいのか(斎藤環著、NHKブックス刊)
プロカウンセラー養成講座2球心理カウンセラー教本(一般社団法人日本プロカウンセリング協会刊)


***To be continued***
次回もお楽しみに。。。



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