<profile>
大宮冬洋 omiya toyo
1976年埼玉県生まれ。フリーライター。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職するがわずか1年で退職。編集プロダクションを経て、2002年よりフリー。雑誌、web、書籍などで活躍する。著書に『30代未婚男』『ダブルキャリア』(ともに共著、NHK出版生活人新書) がある。最新刊は、『バブルの遺言』(廣済堂出版)。
日経ビジネスオンラインにて『ボク様卒業への道 ロスジェネ既婚男のつぶやき』を好評連載中。
ブログ『実験くんの食生活』を毎日更新中。


洪愛舜 Hong Ae Sun
1977年大阪府堺市生まれ。
立命館大学理工学部卒業後、出版社勤務などを経てフリーランスのライター・編集者に。編集プロダクション「econ(エコン)」主宰。
著書『もやもやガール卒業白書』(MMR)がある。
『econ-mag』編集長。


     
 

洪愛舜さま

お世話になります。大宮です。
メールをありがとうございます。
昨夜は2時過ぎまで飲んでいて、本日は昼過ぎまでグダグダ寝ていて、 「ああ〜、今日という日をまた無駄にしてしまった。遊ぶでもなく働くでもなく…」 という自己嫌悪モードに突入していたところだったので、洪さんの自分の言葉で 書かれているメールを読んで少し元気になりました。

いきなり話が逸れますが、「自分の言葉」で話したり書いたりすることって 大事だと思います。僕は確かに内田樹氏が好きですが、彼の真似を しようとは思いません。知識量が圧倒的に違いますからね。
たまにカッコつけて「オトナ知識人」のふりをしてしまうこともありますが 帰り道とか布団の中で「うわー、恥ずかしい…」と身もだえすることになります。
先日、久しぶりに小学校時代からの旧友と再会して飲み交わしたのですが、残念ながら 楽しい気分にはなりませんでした。彼は子煩悩で気遣いのできる人間なのですが、 なぜか話が猛烈につまらないのです。その理由は、同僚や新聞や書籍やインターネットから 仕入れたらしい情報と分析を無批判に熱く語るからだと思います。
で、お前は何を感じて考えているの? どんなにバカでくだらない話でもいいから、 お前自身の体を一度は通した言葉を聞かせてくれよ。
彼はよく言えばサービス精神が旺盛、悪く言えば「自分の言葉」に自信がないのでしょう (そんな自信は不要なのですが)。
白々しい言葉を聞くぐらいなら、二人で黙って飲んでいたほうがマシです。
酒や肴はおいしかったのだから。

つい愚痴になってしまいました。
洪さんが『東京ファイティングキッズ』風な知識人メールを送ってこなかったこと、とても 嬉しく思っています。僕も気軽にメールできますからね。

>「とりあえず、面白いって自分が思ったから、やってみる。どうなるかは、その後で考える」
素晴らしいですね。僕が仕事人としての洪さんに信頼を寄せる理由の一つだ、と 読んでいて感じました。企画力と実行力に富む洪さんにはぴったりの信条だと思います。

僕には企画力も実行力もありません(改めて書くと気が滅入りますね…)。
仕事だけではなく、遊びでもそうなんです。
主体的に実行できるのは、「映画を観に行く」「友だちとおしゃべりする(メールも含む)」 ぐらいです。あとは今日のようにダラダラ寝ているだけ。
演劇や旅行やイベントも嫌いではないのですが、「チケットを上手に予約できる気がしない」 などという訳のわからない気分が先行してしまい、どうにも腰が重くなります。
その代わり、信頼できる(信頼できそうな)人から誘ってもらった場合は、よっぽど嫌でない限り 二つ返事で「行く行く!」と受けることにしています。

仕事も同じです。ごくたまに自分でも企画を提案・実行することもあるのですが、大半は 「企画が無事に通ってもうまく実行できないかもしれない」とウジウジモジモジした挙句に 何もしないままで終わってしまっています。
でも、言葉を他人と共有したいという気持ちはあるので、いま抱えている連載記事を がんばったりブログを淡々と続けながら、洪さんのような人から声をかけてもらうのを じっと待っているのです(今回の「往復書簡」企画も即答で賛同したでしょ)。

> 特に大宮さんはあんなにうだうだなことたくさん言ってたのに あれよあれよと言う間に同棲が始まりそれに驚いている間に結婚、と、 本当に人生ってこんなにめくるめくものなんだなぁと大変びっくりしました。
> こんなにズズズズー!って進んでいく展開に、大宮さんは戸惑ったり怖くなったりしませんか?


僕にとっては「同棲」も「結婚」も「二世帯住宅」も、上記のお誘い→行く行く!の流れだったと 思います。誘われて嫌じゃないからOK。いつものリズムです。
結婚という一大事に際してこんな受動的でいいのか、と自分でもときどき思います。
でも、振り返ってみると、頭であれこれ考えて主体的に生み出した「変化」は、なぜかあまり 良い結果にならないことが多いんですよね、僕の場合は。

就職は典型例です。
大学3年生のとき、「俺はグローバルビジネスリーダーの素質がある!」と無茶な自己認識をして、 それが適いそうな企業に就職し、大失敗をしました。わずか1年で退職し、冷静に自分を見つめ直すと、 「グローバル」にも「ビジネス」にも「リーダー」にも向いていなかったことに気づきました。
その気づきを興奮気味に友人たちに話したら、
「今さら気づいたの? 就職する前にお前に言ったじゃん。あの会社は向いてないよって。 人の話を聞かないヤツだな!」
と呆れられました。
で、消去法で仕方なく選んだフリーライターという職業は今年で9年目になります。いろいろ苦労も ありますけど、楽しく続けられているので、ライターという仕事内容とフリーランスという生活形態が 僕には向いているのだと思います。学生のときは想像すらしなかったな。

恋愛も同じようなものです。「何を考えているのかわからない、僕のことが本当に好きなのか どうかもわからない、エキゾチックな風貌の美女」を長年追い求めてきました。
実際に何人かと付き合うこともできたのですが、なぜか長続きしないんですよね。
で、あるとき親友(女性)に相談したら、
「あなたは、好きになった女性より、好きになってくれた女性と付き合うほうがいいと思う」
と言われ、ショックを受けました。恋愛狩猟民族だと自負していたのに、実は農耕民族だったんですね。
恋愛でも受け身な人間だったとは……。

変化は外から訪れるもの。自分はそれを避けるか受けとめることしかできない。
こんな気持ちが骨の髄までしみている典型的日本人なのかもしれませんね。
あ、これは内田樹『日本辺境論』(新潮新書)の受け売りです。

ただし、「既婚者は配偶者以外の女性と恋愛・セックスをしてはいけない」という 変化には戸惑いを覚え続けています。
結婚をする際、妻に「浮気してもいいかな?」と率直に相談してみたのです。
そうしたら、「嫌だけど、どうしてもあなたがしたいなら、私も浮気するかもしれないけど いいの?」と言われ、絶句しました。

で、同棲時代から数えると1年程が経過しましたが、妻以外の女性とセックスをしたことは この1年で一度もありません(自慢げに言うことではありませんね……)。
ただし、食事ぐらいには自由に行きますよ。
昨夜飲んでいた相手も、25歳のエキゾチック美女です。いやー、独身だったら確実に 口説いていましたね。土下座してでもセックスをお願いしていたと思います。
僕は結婚しています。妻に内緒で浮気しちゃってもいいのですが、僕の場合はずっと 後ろめたい気持ちを引きずってしまい、最終的には破局を迎えることが経験的にわかっています。
だから、何もしませんでした。
でも、欲望はあります。俗に言う「バラマキ願望」ですね。
イイ女と仲良くなったらヤリたい。多くの男性(女性も?)が持っている本能だと思います。

しかし、やるせない気分は抜けません。
仕方ないのでこのモヤモヤを正直に相手の女性に伝えることにしました。飲みの席だから、それぐらいのエッチトークは許されますよね。
彼女は笑って受け止めてくれました。あなたは魅力的よ、とリップサービスをしてくれた後でこんな風に諭してくれたのです。
「私はいま、自分を大事にしたいから、遊びのセックスはしたくない。もしも数年前の私だったら既婚者ともセックスしていたかもしれないけど。大宮さんも、飲む相手を変えたら浮気できるかもね。
でも、それは奥さんを傷つける前に、自分の中の『恐れ』を増やしてしまうことにつながる気がする。
人間は欲望の塊であると同時に、恐れの塊でもあると思う。私たちは欲望と恐れを上手にコントロールしていかなくちゃいけないんじゃないかな」
彼女の言う恐れとは、この場合は「浮気がバレるんじゃないか」「浮気したということは自分は妻のことを愛していないのじゃないか」などの不安や疑念を指すのだと思います。

彼女のオトナな回答に100%納得したわけではありませんが、僕の問いかけにストレートに一生懸命答えてくれたことを嬉しく思いました。で、少しは心安らかな気分になって、「また飲もう!」と言い交わして深夜の街角で明るく別れたのでした。

まとめにも何にもなりませんが、恥ずかしい心情までぶっちゃけてもちゃんと聞いてくれる友人(特に異性)がいれば、変化への戸惑いもなんとかやり過ごせるのではないかと思っています。

と、ここまで優等生的な文章を書いてきたのですが(そうでもないか)、結婚生活を揺るがしかねない問題が表面化しています。義父でも義父母でもなく、義犬(妻の愛犬)の扱いを巡る言い争いです。
犬好きなつもりの僕ですが、室内犬とは一緒に暮らせない……。
まったく想定していなかった「変化」なだけに、受け入れがたい動揺を覚えています。
この問題、まだ夫婦の間でまったく解決していないので、いずれまたの機会に書くことにします。

相変わらずグダグダモジモジと自分のことだけを考えている僕ですね。
たまには「日米同盟の今後」とか大きな問題に頭を悩ませてみたいです。

ではまた。

大宮冬洋

2010年6月24日 17:57
 
     
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