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ロスジェネ男子ライター・大宮冬洋(1976年生まれ)と、ロスジェネ女子エディター・洪愛舜(1977年生まれ)、ふたりの「ロスジェネど真ん中世代」が試みるインターネット往復書簡、第12回目です。今回は、「母性」についてのお話から始まります。母性って、何だろう……?


<profile>
大宮冬洋 omiya toyo
1976年埼玉県生まれ。フリーライター。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職するがわずか1年で退職。編集プロダクションを経て、2002年よりフリー。雑誌、web、書籍などで活躍する。著書に『30代未婚男』『ダブルキャリア』(ともに共著、NHK出版生活人新書)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵〈ストーリー〉』(ぱる出版) がある。最新刊は『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)。

日経BPネットにて「『仕事恋愛』の理論と実践」を、東洋経済ON LINEにて「今週の愛知県人」を、、NHK出版のブログメディア「あしたの生活」にて、30代の悩みというテーマで自分自身に取材するルポエッセイ「30代のもやもや」を好評連載中。
雑誌連載も多数。
ブログ『実験くんの食生活』を毎日更新。
2011年9月より、毎月1回主催イベント『スナック大宮』を開催。今後の開催予定は、4月17日(事前予約制、早めの予約推奨)。


洪愛舜 Hong Ae Sun
1977年大阪府堺市生まれ。
立命館大学理工学部卒業後、出版社勤務などを経てフリーランスのライター・編集者に。編集プロダクション「econ(エコン)」主宰。
著書『もやもやガール卒業白書』(MMR)がある。
『econ-mag』編集長。



     
 
大宮冬洋さま

こんにちは。お元気でいらっしゃいますか?
まずは、新刊『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』の出版、おめでとうございます!
売れ行きご好調のとこと。素晴らしいです。
出版記念スナック大宮も盛り上がったんだろうなぁ。
私も拝読しました。
なんというか、「成長し続ける」というのは、とっても大変で、しんどくて、いろんな犠牲を伴うことなのだなぁと感じました。
今、1歳10カ月の娘と毎日一緒にいると、日々ものすごいスピードで成長しているのを感じます。
2か月で2センチ背が伸びたり、昨日まで話せなかったことを話せるようになったり、突然「モノマネ」をしだしたり……。
でもそれは、彼女がまだ未成熟で未完成だからこんなにも成長できるし、周囲もその成長に気づくのであって、ある程度「人として完成」したら、この成長スピードは維持できないだろうなぁと感じます。
(まぁ、何をもって「完成」とするか、という見方もありますが……)
国も企業も、黎明期であれば伸びシロが大きくて成長スピードも目を見張るものがあるかもしれませんが、ある程度成熟期まで来ると、成長はゆるやかになるか現状維持(それでも十分難しい!)に近くなると思うのですが、ユニクロさんはそこまで来ても「急成長を」という方針なのですよね。
大変だ……考えただけで大変だ……。

ある程度成長し尽くしたら、まだ未開である別の分野に手を広げて、そこでもまた成長し尽くしたらまた別の分野へ、ずっと「急成長」し続けるにはそれしかなくて、それをずっと繰り返していたら……どこまでいけるのだろう。
「無限」というものは存在するのかな……宇宙でさえ限りがあるというのに……
やっぱり「無理」がある……?
そんな、「急成長し続ける」ための数多くの「無理」が、本書に凝縮されているように思いました。
なので、読後はとても疲れ果てた気分になりました……。
私が「組織人」ではないゆる過ぎる生活が長くなっているせいだと思います。
でも、もうひとつ感じたことは、結局人を支えるのは「勤勉さ」だということです。
勤勉に働く人は、どこへいっても生きていけるし、大切にされる。
それは、どの職業であっても。
もともと怠け癖のある私なので、そのあたりを大いに反省し、本書に登場する杉山さんや浜田さんのような勤勉さで、信頼される人間になりたいと思いました。

と、感想だけでこんなにも長文になってしまった……!
ここから本題です。
今日は大宮さんが全く興味がないと思われる「母性」について書きたいと思います。
「私が自分の中の母性について気づいたとき」という、大宮さんにとってはかなりどうでもいいことだと思うのですが、お付き合いいただければ嬉しいです。

前回の妊娠中に気が付いたのですが、女性は二種類あって、妊娠中にすでに「母性」が芽生えている人と、そうではない人がいるようです。
私は、断然後者でした。
「母性=??」という感じで、母になるって何、我が子とはどういうものなの?と、妊娠中も素朴な疑問として持っていたのです。
妊娠8カ月のときに東日本大震災が起こり、「母親が子どもを守った」というニュースで「やっぱり母は強し」などと言われるたびに、「私、そんな、全然強くないよう。どうしよう……」と日々不安になり、落ち込んだりもしました。

そんな私が初めて自らの「母性」なるものに気が付いたのは、出産から3ヶ月経った8月の暑い日でした。
帰省していた私が、実家の和室で娘と寝転がっていたとき、どこからともなく蚊が入ってきたのです。
ウチの実家は目の前に藪がある関係で夏場はとにかく蚊が大量発生していて、蚊に刺されやすい体質の私は毎年苦しめられていたのですが、その時、ぶううんと飛び回る蚊に対して、「蚊、娘を刺さないで私を刺して!」と咄嗟に祈ったのです。
私が蚊に刺されやすい体質でよかった、おかげで蚊は娘ではなく私を刺すだろう、とまで。
その瞬間、私の中で衝撃が走りました。
誰かに対してそんな風に思ったのは、初めてのことだったのです。
夫に対しても、「なんでいっつも私ばっかり刺されるんだろう。代わりに夫を刺してくれたらいいのに……」と思っていましたから。
そこで気づきました。
そうか、これが母性か、と。
「自分が犠牲になっても、この人を守りたい」というこの気持ちが、母性なのだと。

自分の中に母性がハッキリと芽生えたことに嬉しくなったと同時に、それまで私が不安に思っていたものの正体もわかりました。
不安の正体、それは、私はずっと、「女子たるもの、守ってもらう存在である」と思っていて、しかし母になるということは「守ってもらう存在」から「自分が守る存在」になるということで、つまり「女子の時間が終わるのだ」ということに対して、受け入れ難さを感じていたのだと気づきました。

でも一旦気づいてしまえば覚悟は決まるもので、それ以来、すっかり母性にまみれて生きています。
それがなんだか自然体で、楽しいです。
「女子の時間の終わり」は少しさみしいですが……。

と、やっぱり大宮さんには興味の薄いお話になってしまったかもしれません。
失礼いたしました……。

今年の東京の桜はなんだか生き急ぐように咲き乱れていますが、満喫されましたか?
春ですね。

洪愛舜

2013/03/26 16:05
 
     


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