涌井香織 wakui kaori
profile
1972年群馬県生まれ。会社員時代、都市計画・書籍の編集・総務経理・飲食店のコンサルティング・舞台の制作・通販企画などに携わる。
2008年より、新宿3丁目にあるバー『LE Temps(ル・タン)』を経営。
バーの経営と並行して、若きアーティストたちを応援する独自のアートイベントもプロデュースしている。
『LE Temps(ル・タン)』ホームページ


お店が入ったビルのエントランス。前の通りを、老若男女、いろんな人が行き交います。ここで次にいったいどんなつながりが生まれるでしょうか…?




では、涌井さんの『これから』は。

「目標は、この店を最後まで続けること。
最後ってなんでしょうね(笑)。
このビル自体がすごく古いので、このビルが解体されるときかな(笑)。とにかく出来るだけ長く、このお店を続けていきたいです。

経営してみて初めてわかったんですが、お店を経営することって、ほんとに孤独なんですよね。
毎日いろんなお客さんが来てくださって、いろいろお話するのですが、皆さんがそれぞれの寝床へ帰っていかれるのを見送って、一人店に残って片づけをしていると時折寂しくなることもあります。当然のことなんですけどね。
責任を持ってこのお店を切り盛りしていくのは私一人のことですから。

経営のこと、少しずつ良くなってきているとはいえ、まだまだ決して楽観できる状態ではないから、どうしても毎日一喜一憂しちゃうんです。お客さんがたくさん来てくれた日はうれしいし、少ないと落ち込んじゃう。
でもそういう感情の起伏は精神的に負担になるから、 いいときは驕らない、悪いときは嘆かない、短いスパンで心を乱されないでフラットな状態を保っていることが、継続するためには大切なのかな。

でもなかなか難しいんですよねぇ。そういうとき孤独が身にしみます……。

とはいえ、わたしは非常に単純にできているので、知っている顔が見えたりすると、昨日のことなんてすぐにわすれちゃって、嬉しくなってしまうんですけどね(笑) 」

  そして、目標だけではなく、叶えたい夢もあります。

「やっぱり、いろんなつながりが生まれるハコを自分なりにつくってゆきたいということ。
今回はなりゆき上、飲食店という形になったけど、そこはこだわらなくてもいいのかなと思っています。

  お店というカタチにこだわらず、もしかしたら空間があればいいのかもしれない。
  まだあいまいでぼんやりしたイメージですが。

  でも、このお店もそうで、今の自分の状態がこのお店の雰囲気を作ってると思うし、そういう風に自然と『なってる』というか、自分自身が表現されているんだって、思うんです。

  たぶん、いつか作りたいと思っているハコも、それまで自分がいろんな道を通って経験したこととか、思ったこと、感じたことなんかがたくさん合わさって、そういう自分が表現されてるハコに『なってるん』じゃないかなぁ、って、漠然と思っています。

だから背伸びしないで、自分にできることを一生懸命やっていけば、なんか面白い空間になるんじゃないかしら。そしてそれが誰かにとって心地いい空間になったらいいなって思います。

  それがどんな道になるか、どんなハコになるかはわからないけど、ずっと未来のことも考えつつ、今の自分と自分の周りにある『人と人とのつながり』を、やっぱりたいせつにしていきたいですね」

 あなたが今、その場所にいることも、私が今、この場所にいることも、全部たくさんの『つながり』があって、ここに辿り着いたわけですが、
 それはただ偶然の『つながり』ばかりではなく、
 それをたいせつに思う人が精一杯の思いを込めて、時には人生をも賭けて、その『つながり』を作ってくれたのかもしれません。

 もしあなたが、今、ここにいることを愛しく思うとしたら、そんな人たちへの感謝の気持ちを、自らが誰かの『つながり』を助けることで返してみるのはいかがでしょうか。

 あちらこちらでつながって、化学反応が起きて、世界がどんどん面白いものになってゆくかもしれません。

 兎にも角にも人のつながりを生むためには、その人たち以上のキャパシティを持っておくことが必要です。
 のんびりとしているように見えて実はこつこつと努力を積み重ねる涌井さんの姿に、その大変さを学びました。

  あなたと私がつながる日が来るかもしれない。
 そのとき、どんな『化学反応』が起きるのか。それが少しでも楽しいものとなるように、私も日々精進しようと思います。
  いつかつながる日を夢見て。




<了>


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text by Hong Ae Sun
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