トレイシィ・チャベス Tracy Chavez
<profile>
1986年生まれ。ペルー出身。1991年に家族とともに来日。2009年、関西大学経済学部を卒業し、今春より上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科に入学予定。ペルーの農村地域における持続可能な経済発展メカニズムについて研究中。





トレイシィさんに転機が訪れたのは、今から7年前。16歳のときでした。日本で生まれた二人の弟たちにペルーで教育を受けさせるために、両親と弟たちが、ペルーに帰ることになったのです。
「両親はずっと考えていたみたいなんですが、初めてそのことを聞いたのが、私が14歳のときでした。当時、上の弟がもう小学校1年になっていて、両親はなるべく早くペルーに帰りたい、でも私がまだ14歳だから、残していくには早すぎる、と考えていたみたいで……。両親は、私に対しては、日本で教育を受けてほしいと願っていたし、ずっと日本で教育を受けさせるつもりだと言われていました。
結局、私の成長と、弟の成長ギリギリのところで、私が16歳で、上の弟が小学3年生のときに、両親と弟ふたりはペルーに帰りました」
16歳といえば、まだ家族と一緒に過ごしたい年頃。しかし、ここでわがままを言うわけにもいかず、両親の想いを汲みとり、お姉さんとふたりでの生活が始まりました。
「もう、本当にお姉ちゃんにずっとお世話になりっぱなしで、感謝してもしきれないぐらいなんです。両親と弟たちがペルーに帰った直後は、私すごくすさんでいたんです。自分は両親に置いていかれたんだ、という気持ち、持っていかなったって言ったら嘘になります。もちろんそうじゃないってこと、頭ではわかっていても、気持ちがついていかないというか……。
仕方ないというのはわかっているけど、当時はどん底でしたね。人生の中で一番つらかった……。姉は、そんな私のそばにいつもいて、お母さんのような愛情で接してくれたんです。お姉ちゃんの存在があったから、立ち直れたのかもしれません」
そんなお姉さんが、今年、結婚することになったそうで、トレイシィさんは今から待ち遠しくてたまらないそうです。
「12月ごろ、ペルーで結婚式を挙げるのですが、何があっても行くぞ!って、今から張り切ってるんです。たとえ日帰りでも行くぞって(笑)。
お姉ちゃんは、今度結婚する方ともう何年もずっと付き合ってたのに、今まで結婚しなかったのは、きっと私のことがあったからだと思います。私が大学を卒業するまでは、って思ってたんだと思う。私を残してお嫁にいけない、みたいに、すごい責任を感じていたみたいで……。本当に、立派な人なんです。
小さいころからたくさん苦労して、でも本当に人格者で、誰よりも家族想いなお姉ちゃんだから、これから本当に幸せになってほしい。お姉ちゃんの幸せを、心から祈っています」
なんという美しき姉妹愛……。これこそが、誰の心にも共通する原風景なのかもしれません。

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text by Hong Ae Sun


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