ロスジェネ男子←→女子の往復書簡【25通目】④「友情ではなく下心が目の前をよぎってしまうのです」

画像_02ロスジェネ男子ライター・大宮冬洋(1976年生まれ)と、
ロスジェネ女子エディター・洪愛舜(1977年生まれ)、
ふたりの「ロスジェネど真ん中世代」が試みる
インターネット往復書簡。
「人間関係を断捨離する」って……??

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洪愛舜さま

こんにちは。大宮です。
昨日から急に涼しくなってきましたね。
先週末(10月8、9日)は、日間賀島という三河湾に浮かぶ有人島へ釣りに行ってきました。
船釣りなのに雨・風・波がかなりあって、最初の30分ぐらいは「陸に戻りたい」と思ってしまいましたよ。少し船酔いもしました。
でも、船頭さんの腕がいいので、釣り糸を垂らすと美味しそうな魚が次々に釣れたんです。
それから4時間ほどは悪天候を忘れて夢中で過ごしました。
民宿のおじさんによると、「この風が過ぎたら急に気温が下がる。夏みたいな日は今日で終わり」とのこと。
翌日から本当にグッと涼しくなり、島で生きる人の知恵を知りました。
風が吹いたら季節が変わる。
こういうことに気づける生活は素敵だなと思うこの頃です。

さて、「人間関係の断捨離」について。

>私は自分のことを「利益がない人」だと思うので、多分「切られる人」だと思います。

僕は洪さんの文章を読んでなぜか嬉しくなってしまいました。
自虐気味の謙遜を貴ぶという儒教精神からだけではありません。
このように自身を見つめている洪さんの揺るぎない自信のようなものを感じたからです。
洪さんは家族だけでなく、友人にも恵まれているのではないでしょうか。
SNS的な「友だち」ではありません。
思い出を共有し、心を許し合い、失意のときでも顔を合わせることができる友人です。
相手への敬意と愛情を前提として、表面的ではない言葉を投げかけ合うこともできます。
大げさに言えば、人生の真実みたいなものを分かち合う仲間です。
僕の場合はたいてい楽しく酔っぱらっているときにそういう気分になるので、友人と一緒にどんな真実を発見して共有したのかを翌朝には忘却しているんですけどね……。

以前に、担当編集者との関係性マフィアの「ファミリー」に例えた作家の文章を読んだことがあります。
とても親しいけれど、基本的には利益を生み出して分かち合うための人間関係なのだと説明していました。
さすがに上手な例えをするなあと感心したことを覚えています。

地域などの共同体における人間関係にも当てはまる話かもしれません。
住民が協力し、支え合うことによって、町の安全や衛生を維持したり、経済や文化を活性化したり。
より住みやすい地域という利益を共有している人間関係です。
実務能力に長けていたり、寄付金額が多かったりする人がゴッドファーザーのように尊敬されるでしょう。
現在は、地域よりも企業という共同体の存在が大きいですよね。
「仕事ができる人」「お金を儲ける力が強い人」に人気が集まる構造は同じです。

一方で、家族や友人というのは利益を得るのではなく愛情を注ぐことを目的としています。
将来に出世しそうな子だけを可愛がる親はいないでしょう。
バカな子ほどかわいいと言いますからね。
友人にも「ものすごく不器用だけれど心が美しい。困っていることがあったらできるだけのことはしてあげたい」と感じる人がいます。

ここで告白します。
僕は一般の人へのインタビューをして、ルポのようなエッセイのような文章を書くのが仕事です。
企画のテーマによって、インタビューする人の年齢や性別、職業、恋愛状況などが限定されます。
できる限り多様な人と知り合っておくことが必要なのです。
匿名であってもインタビューに応じてくれるのは、僕との間に個人的な信頼関係がある人が少なくありません。
つまり、友人たちですね。

こんな生活をしていると、「この人とは一度会っただけでそこまで親しくない。でも、いつかインタビューさせてもらうことがあるかもしれない」などと考えて、連絡先をいつまでも控えておいたりするんですよね。
その相手が美しい女性だったりするとなおさらです。
まさに断捨離をするべき人間関係なのかもしれませんが、携帯の電話帳を整理しようとするたびに、友情ではなく下心が目の前をよぎってしまうのです。
自分のあさましさが嫌になることがあります。

で、年上の女友達に相談したのです。
友人知人にも利益を求めてしまうことがある自分をどのように扱えばいいだろうか、と。
銀座で長くホステスさんをしていたこともある彼女は、こんなアドバイスをしてくれました。

9割が下心でも1割の誠意があればいいと思うよ。相手によっては、誠意の割合がもっと上がったりする。
人間なんだから下心があって当たり前。でも、誠意を少しも捧げられない人には近づかないほうがいいよ」

誠意が1割あればいい。
この言葉に僕は救われた気がしました。
下心(利益獲得)が大きい相手には必要なときだけ会えばいいのですね。
もちろん、相手の誠意や純真を利用する形ではなく、お互いが利益を得る関係構築が理想です。
利益追求のために協力し合っていた仕事仲間との間に、いつしか友情や恋愛感情が芽生えることもあるでしょう。

普段の生活では、お互いに友情を感じている人とダラダラと無駄なおしゃべりをしていればいいのです。
毎度同じネタで笑えるような関係です。
何かあったときはお互いに助け合えるかもしれないけれど、日常ではそのような利益は意識しません。
それでこそ友人なのです。

このように考えると、捨てるべき人間関係などはほとんど見当たりません。

人間関係を断捨離する必要がないのは、素敵な人に囲まれた人生を今まで歩んで来られた証拠だと思っていいのではないでしょうか。

大宮冬洋
2016/10/11 9:44

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<大宮冬洋 プロフィール>

1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。一橋大学法学部卒。新卒入社のユニクロをわずか1年で退社し、編集プロダクションを経て2002年よりフリーライターに。 高校(武蔵境)・予備校(吉祥寺)・大学(国立)を中央線沿線で過ごし、独立後の通算8年間は中央線臭が最も濃いといわれる西荻窪で一人暮らし。新旧の個人商店が集まる小さな町に居心地の良さを感じるようになる。
2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。現在は「蒲郡の中央線化(もしくは鎌倉化)」を模索している。
月の半分ほどは門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験中。

Yahoo!ニュース個人にて、「ポスト中年の主張」を配信中。
「キャリア女子ラブストーリー」(日経電子版「WOMAN SMART」)、「ニッポン独身くん図鑑」(『婚活のミカタ』)、「晩婚さんいらっしゃい!」(東洋経済オンライン)、 「『仕事恋愛』の理論と実践」(日経BPネット)などのweb連載のほか、雑誌連載も。

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著書に『30代未婚男』『ダブルキャリア』(ともに共著、NHK出版生活人新書)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵〈ストーリー〉』(ぱる出版) がある。最新刊は『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)。
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<洪愛舜 プロフィール>

1977年大阪府堺市生まれ。
立命館大学理工学部卒業後、出版社勤務などを経てフリーランスのライター・編集者に。編集プロダクション「econ(エコン)」主宰。
著書『もやもやガール卒業白書』(MMR)がある。
『econ-mag』編集長。
『目黒駅前新聞』編集長。
5歳児&3歳児を子育て中。
ブログ『目黒より、econがお届けします』を不定期更新。