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大宮冬洋 omiya toyo
1976年埼玉県生まれ。フリーライター。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職するがわずか1年で退職。編集プロダクションを経て、2002年よりフリー。雑誌、web、書籍などで活躍する。著書に『30代未婚男』『ダブルキャリア』(ともに共著、NHK出版生活人新書) がある。最新刊は、『バブルの遺言』(廣済堂出版)。
日経ビジネスオンラインにて『ボク様卒業への道 ロスジェネ既婚男のつぶやき』を好評連載中。
ブログ『実験くんの食生活』を毎日更新中。


洪愛舜 Hong Ae Sun
1977年大阪府堺市生まれ。
立命館大学理工学部卒業後、出版社勤務などを経てフリーランスのライター・編集者に。編集プロダクション「econ(エコン)」主宰。
著書『もやもやガール卒業白書』(MMR)がある。
『econ-mag』編集長。





     
 

洪愛舜さま

こんばんは。今年も終わりですね(この往復書簡が公開される頃は2011年になっているのでしょうけど)。
僕は事務所で働いています。
明日(大晦日)と明後日(正月)ぐらいは仕事から離れますが、2日からはフル稼働する予定です。

前回のメールでも書いたように「何でもライター」に復帰して2ヶ月ほどが経ちました。昔の仕事仲間に頭を下げて回ったら、ありがたいことにいろんな記事を任せてくれて、1月は15本の原稿締め切りが控えています。
2日に1本ペースで書きまくらねばなりません。
正直言って、やり遂げられるか不安です……。4年ほど前は最高で月20本ぐらいはこなしていたはずですが、ブランクというのは恐ろしいですね。
取材のアポ入れから脱稿までのペースというかテンポがつかめないのです。

とはいえ、ここでダメな仕事をしたら本当に先がありません。
ブランクがある僕を信頼してくれた編集者を裏切ることになりますからね。
仕方ないので、「時間」と「足」と「恥」をありったけ投入する「ひとり人海戦術」で仕事を遂行することに決めました。ペースやテンポがつかめない〜、なんてぼやいている場合ではありませんね。
食事時ぐらいは人と楽しく過ごしていますが、他の覚醒時間はひたすら仕事です。

「一貫していないといけないという強迫観念」、僕にもありますよ。
そして、その観念は悪いことではないと、一貫できなかったくせに思っています。
何も言語化せずに生きているのは動物と同じだからです。
「私はこれだけはやらない」「このポイントを大事に働いていく」といったポリシーや目標を自分の言葉で創り出すことは、人間としてより高く生きるために必要な作業ではないでしょうか。

で、言葉に影響されながら行動してみる。
僕の場合は3年前に「実用記事はもう書かない。エンターテイメントだけを書いていく」と自他に宣言し、曲がりなりにも実行してきました。
上記のように職人ライターとしての腕がにぶる、貯金が尽きる、結婚生活が破綻する、などなどの弊害はありましたが、後悔はあまりしていません。
「エンターテイメントだけでは自分は食べていけない」という事実に直面することができたからです。

ならば、どうするのか。
コンビニなどでアルバイトすることも一時は考えましたが、そうすると余計に文章から遠ざかってしまう気がします。
僕はやはり「言葉」でしか売れる能力を発揮できない人間なのです。
他の多くの能力(例えば接客や体力や計数管理)は他の人より明らかに劣っている、と言ったほうがいいかもしれません。

だから、何でも書きます。
唯一やらないのは、広告タイアップ記事(編集記事に見せかけて実はスポンサーから金をもらっていたり、広告を出してもらうことを狙った記事)ぐらいです。
ではエンターテイメント記事をあきらめたのかと言うと、そうでもありません。
たとえ実用記事でも、わかりやすく情報を伝えつつ、泣き笑いの要素を入れられると思うからです。…すみません、負け惜しみですね。

ライターとして生き残る道としては、「1.5流の組み合わせ」を考えています。
自己評価では「一流のビジネスライターにはなれない」僕ですが、他者評価はちょっと違います。もちろん、「君は一流だ」と言ってくれる人はいません(いたら単なるおべっかです)。
しかし、堅めの実用記事に強い出版社(NHK出版・プレジデント社・日経BP社など)から継続的に仕事をもらっているという事実から推察すると、僕は客観的には「さまざまな実用記事を手堅くまとめられるライター」ということになるでしょうね。

不良を目指していたのに「お前は所詮ガリ勉だよ」と言われているようで、うれしくはありませんけど…。

実用記事の世界でがんばれば、1.5流の仕事はできるということです。
くどいようですが、僕には一流は無理ですよ。例えば、ものすごく日本酒に詳しい女性ライターがいます。おそらく全国でも五本の指に入るマニアでしょう。
専門知識と人脈の幅と深さが問われる実用記事の世界では、彼女だけが一流の「日本酒ライター」なのです。僕は特定の分野にそれほど入れ込むことが体質的にできません。非マニア体質なのです。

ただし、僕のようなライターにも「組み合わせで勝負する」という道が残されています。

「日本酒」も「結婚事情」も「製造業」も少しずつわかっているのであれば、複数の要素を織り交ぜながら、わかりやすく面白い記事を書けるかもしれません。
というか、やるっきゃありません。生活がかかっているのだから。

すみません、またしても「返信」になっていませんね。
洪さん相手だと、つい仕事話に熱が入ってしまいます。
ノートパソコン、うらやましいです。今度見せてください。
洪さんの「大きな変化の岐路」もぜひ聞かせてほしいです。

 

大宮冬洋

2010年12月30日 17:09
 
     


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