『たいせつなもの』を切り口に、その人の「今まで」と「今」と「これから」を掘り下げてゆくこのコーナー。今回、４回目にして、初めての男性ゲストです。

フリーライターとして活動中の大宮冬洋さんにとって、今、一番たいせつなもの、聞いてみました。

「僕が今一番たいせつなものは、『自分自身』です」

『バカバカしいかもしれませんが』という前置きをつけて、少し申し訳なさそうに話し始める大宮さん。

「いろいろ考えたんですよ。
ちょっとカッコつけて、『地元・西荻の飲み仲間たち』とか、そういう人間関係的なものなのかな、とも思ったんですが、突き詰めて考えると、その人間関係だって、自分が居心地よく過ごせるために作っているのかもしれないなぁって」

『人からどういう風に見られているか』。それが、大宮さんにとってとても大切な価値判断の基準であると話します。

「小学校の頃、人気者になりたいとか、モテたいとか、そういう気持ちは強く持っているけど、言えないし、たとえ言ったとしても絶対にできないし、そんなパッとしない感じでした。
運動もできないしモテないけど、こうなったら『学力で金と権力と女を手に入れる！』って強く思って、中学ぐらいから勉強を始めたんです」

それから『ガリベン』と化した大宮さんは、都立高校では有数の進学校に進み、一流大学へと進学する。

「ずっと『偏差値70以上の人生』を歩みたいって思ってたんですよ。
これは、就職活動をするときに思ったんですが、自分は、自分のやりたいことがどうこうっていうより、人から見てカッコイイ人生、ピカピカの人生を送りたいという気持ちがすごく強かったんです」

100点、とか、そういう絶対的な「点数」ではなく、相対的な「偏差値」で判断するという発想が、なんだか可笑しくほほえましいです。

「僕が就職するときはいわゆる『就職氷河期』でしたが、一橋大学はみんなそこそこいい企業に就職できていて、外資系金融やベンチャー企業といったハイリスク・
ハイリターンな道を選んでいたので、『トップエリートのこの俺は、ベンチャーで早々と頂点に立つ』って思ったんです。
外資系の証券会社とかコンサルとかにインターンで行ったりして、『金融さえも俺には追いつけない』とか本気で思っていました」

そうして大宮さんは、ベンチャーの中でも当時一番勢いがあって面白そうだったユニクロに就職を決めます。

「３年で社長になる気でいましたね。『ヤナイくん（柳井正ユニクロ社長） 今がんばってるけど、俺がすぐ行くからネ』、みたいな（笑）。
同級生たちに対しても、まぁキミたち、銀行とか行って、ATM係がんばってね。俺ががっつり預けてやるから、とか、キミたちが支店長になる頃には俺はハッピーリタイヤして、プーケットの島とか買ってるだろうから、遊びにきてね、とか。思ってました」

あの、今のところ、超いやなヤツなんですが……。

「いやなヤツでしたね（笑）。でも、就職してすぐ、まさかの『挫折』が待ち構えてたんですよ」