山本周史 Yamamoto Chikafumi
<profile>
1969年広島県生まれ。大阪芸術大学映像学科を卒業後、広告代理店を経て映像ディレクターに。現在は株式会社ZUNOコンテンツ開発部プロデューサー、クリエイティブディレクターとして、商品の企画開発や映像制作、祐天寺応援サイト『U10G』の運営などに携わる。






細やかなフォルムや質感にまで
こだわったルフィの麦わら。
ルフィが感じた感動が伝わってきます。


「あなたが今、一番たいせつなものは何ですか」
このコーナー定番の最初に質問に、今回のゲスト・山本周史さんは少しはにかんで「むずかしいですよねー……」と少し考え込みながらゆっくり話し始めてくれました。

「ひとつに、しぼれないですよね。むずかしい……。でも、『今』という言い方をするならば、今、ものづくりをしているので、『サンタさんの気持ち』かな。『プレゼント魂』、というか」
サンタさん! 「何をもらったら喜ぶかな」みたいなもの、でしょうか!?
「そうそう。今はそれを、一番たいせつにしていますね」
そういうのって、自分の内にあるものなのでしょうか?
「僕の場合は、結局、自分が何をもらったらうれしいか、ということなので(笑)。やっぱり、自分が一番のお客さんなんです。自分がほしいもので、みんなも多分ほしいだろうな、というものを作る。だから僕の企画する商品は毎回一点もののオーダーメイドクオリティ、とにかくこだわるんです」
自分がほしいという感覚と、お客さんもほしいという感覚。それが離れてしまうことはありませんか?
「離れるのか寄り添うのかは、商品への愛情のかけ方で左右すると思います。特にネット販売の場合、そこら辺をごまかすとアウト。すぐ見抜かれます。あまり商売っ気がありすぎるとだめですね(笑)」
今年4月に山本さんがプロデュースした大人気コミック『ONE PIECE(ワンピース)』の主人公・ルフィの麦わら帽子は、たくさんのファンから愛されるアイテムとなりました。
「世の中にこういったコレクターズアイテムを作っているところは沢山あるんですが、商売優先で、ディテールにこだわらず、手を抜いたものは、人気作品の商品でも実は全く売れていないらしいんです。『それって無意味なんじゃないの?』っていうくらいのこだわりを、山ほど盛り込んだものが、結果的に響いていると思うんです」
自分がほしいものだからこそとことんこだわる、ということですね。『ルフィの麦わら』は、企画者である山本さんの会社・ZUNOと販売元のバンダイ、そして製造を担当する100年以上の歴史を持つ麦わら帽子の専業メーカー・石田製帽とがタッグを組み、漫画原作、アニメ、画集など、入手できる資料を徹底的に研究し、色や素材感、シルエットを割り出すことで完全に再現。その完成度の高さに、多くのファンたちがうなり、嘆息を漏らし、その心を捉えられました。

しかし、そうやって「自分が作りたい」ものをプロジェクト化して動かしていくには、よほどの説得力が必要になってくるかと思うのですが、それはどのようにクリアしていくのでしょうか?

「そうなんです。最初自分が『こういうことやりたいんですが』って提案したときは、相手は大抵『???』という感じですね。この『ルフィの麦わら』にしても、最初はみんなそこに良いとか悪いとかはなくて、『……はあ…。』と言う感じで(笑)」
やっぱり(笑)。『ポカーン』とされるんですね(笑)。
「そして、内外問わず、そんなの無理なんじゃないの、とか、そこまでこだわって意味あるの?とか、初めはやはりそういう反応が多いです。だから、まずはみんなが『損をしない仕組み』を考える。それが僕の仕事ですからね。そして、それぞれ損しないんだったら面白そうだし、やってみてもいいんじゃない、という風になるんです」
『ルフィの麦わら』もそうでしたか?
「そうですね。『ルフィの麦わら』の場合だと、現在は毎回限定100個の完全受注生産で、事前に予約してもらって抽選し、当選者の手元に届くのは3ヵ月後、という手順になっています。そうすると誰も損しないんです。バンダイさんは余剰な製品在庫をもたなくてすむし、石田製帽さんは注文が来てから材料を仕入れるから余分な材料をかかえなくてすむ。在庫リスク分が販売価格に含まれていないのでお客さんには安価でご提供できる。 但しこの仕組みですと、お客様に商品到着までお待ちいただくことになりますが……。
インターネットで注文したら翌日に何でも届くようなこの時代に、毎月抽選でたったの100個、しかも届くのが注文してから3ヶ月後という商品なんです。それでも大きな混乱もなくお待ちいただけているのは、ワンピースファンの人たちに、僕らの想いや、職人さんたちの手間やこだわりなどが正しく伝わっていて、理解していただいているからだと思います。作り手の想いとお客さんの想いが合致した瞬間でした」
ほしいものはいつだってすぐに手に入るという今の時代に、その「不便さ」が逆に希少価値を生み出したのかもしれません。『ルフィの麦わら』は再販売の要望の声が多く、現在も定期的に計画生産しているそうです(次の販売開始時期は未定ですが、随時サイトをチェックするといいかも!?)。

 

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text by Hong Ae Sun





 
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